化学は「つじつま合わせ(論理)の学問」といわれます。化学がわからないというのも、化学物質管理にあまり役に立たないMSDS(製品安全データシート)が多いのも、無理はありません。なぜなら、その化学は単なる経験の積み重ねであり、そこには「既知の情報を解析し、新たな知見を予測する化学」という、本来のサイエンスとしてあるべき化学の考え方が存在しないからです。毒性学などにおけるバイオアッセイでの知見は、科学的考察のうえでは、たしかに重要な場合が多いものです。問題はその運用方法です。
JPCCNでは、「似たものの性質は似たものに似る」という化学の普遍的な原理(構造活性(作用)相関)に着目。知見はほとんど存在しないものの、似た構造をもつ化学物質の何等かの知見が存在する場合、その構造類似性から、評価の対象となる化学物質の作用(毒性、環境中での挙動など)について予測し、リスクコミュニケーションにおける考え方を示唆することができます。
JPCCNは、「構造式は化学でいう『ことば』であり、最も基本的かつ重要な化学情報」であると説明していますが、この解析技術のしくみは、このことをよく示しています。


例1)官能基の性質に分解してリスク予測―シアノ基をもつ物質の定性LCA解析
シアノ基は強い電子求引性を持ち、還元以外の化学変化が起こりにくい官能基です。シアノ基を持つ物質は、焼却などにより、そのシアノ基に由来するシアン化水素(HCN)を発生させるか、もしくは、微生物などの作用でシアノ基の部分が一旦還元されない限り、その化合物の酸化的分解がきわめて起こりにくいということが考えられます。
という考察が導かれます。

例2)内分泌攪乱作用(エストロゲン性)の予測
内分泌攪乱作用について、物質ごとに動物実験を行い、応答を確認しなければ知見が得られないという考え方は必ずしも正しいものではありません。内分泌攪乱作用の可能性はある程度予測できます。そのことは、これまで知見が得られている内分泌攪乱作用を示す物質の構造を比較すればよくわかります。

17β-エストラジオール、DES(ジエチルスチルベストロール)、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、ビスフェノールA、p-ヒドロキシ安息香酸ブチル

以上に挙げた化学物質は、すべて立体障害の小さいパラ位にフェノール性OH基を持ち、かつそのOH基に関してパラ位に適当な大きさの疎水性構造を持っていることで化学構造論的に共通しています。

しかし、同じフェノール性の物質であっても、BHTのようにOH基の周辺(オルト位)に巨大な立体障害が存在したりする場合にはエストロゲン性を示す可能性はきわめて低いことや、上記のようなエストロゲン性を示す物質に対して、浄水場で行うような塩素処理を行った場合には、フェノール性OH基に関してオルト位に塩素の立体障害ができるため、エストロゲン作用の強さが相対的に減少するという知見も報告されています。従って、前に示したような立体障害が小さい、ある程度のサイズの疎水構造を持ったフェノールという化学構造論的条件が非常に重要な意味を持つことになります。
ですから、同じような構造パターンを持つ化学物質であれば、たとえ動物実験に基づく知見が十分に存在しないとしても、内分泌攪乱化学物質であることの疑いは、化学構造論的には十分にあるということがわかります。また、ベンゾフェノンや3-フェノキシベンジルアルコール構造を持つ合成ピレスロイドのように、代謝によって新たにこのような構造を生成しうる物質があることも注目されます。
JPCCNの化学情報解析技術