生物多様性保全とJPCCN
リスクについて未知の点が多い合成化学物質が今日のように多量に使われることのなかった時代、多くの種類の生きものが暮らす身近な自然環境は、こどもたちの遊び相手や心のふるさととなる美しい自然景観などとして人々に親しまれてきました。しかし、皮肉にもそのような自然環境が必ずしも当たり前ではなくなり、むしろめずらしい存在となってしまった現在になって、生物多様性が損なわれることによる弊害や危機意識に気づくことになったのです。それは、単なる情緒的な問題ではなく、私たち人の健康的な生活に対する警鐘でもあるのです。例えば、化学物質によるものに関しては、以下のような兆候が確認されています。
紫外線量が増えたことにより、表皮組織が敏感なカエルなどの生息数が激減しているといわれています。現在でも輸入穀物にはオゾン層破壊物質である臭化メチルが検疫用として使われていることがその一因とされます。
カエルや魚類に対して奇形を示すような有害化学物質を含んだ製品が、家庭など身近なところでも使われています。奇形個体の発生には諸説ありますが、このような現状から考えれば、有害化学物質の影響も否定できません。
農地での有害性の高い農薬有効成分の使用は、水生生物に経世代的な悪影響をもたらしているとされます。とくに水生昆虫に対しては致命的な影響が及んでおり、例えばタガメは絶滅危惧種(環境省レッドデータブック)に指定されています。有害性の高い農薬有効成分の影響については、そのような成分を含む農薬の使用を取りやめた農地で本来の自然生態系をとり戻しつつある数々の事例からもわかってきています。
これほどまで早い勢いで自然生態系が貧弱化したのは、合成界面活性剤特有の毒性作用にもよっているとされます。合成界面活性剤は高濃度ではそれ自体も強い毒性作用を示しますが、細胞膜のバリア機能を弱め、他の有害化学物質の毒性を強めることも注目すべき作用です。また、分解者として位置づけられる多くの種類の好気性細菌に対して強い毒性を示すとされ、このようなものが大量に使用されるようになったことが、都市河川や湖沼の慢性的な有機汚濁を引き起こす重要な原因の一つになったと考えられています。
塩素系樹脂の使用と焼却文化、有機塩素系化合物の安易な使用は、非意図的生成物であるダイオキシン類の大量発生という新たなケミカルリスクを生み出しました。ダイオキシン類は、細菌から脊椎動物、さらには人に至るまで、自然界のあらゆる生物種に対して経世代的な毒性影響をもたらすことが指摘されています。また、そのような物質使用の現状を改善し、発生源対策を行わない限り、その問題の根本的解決にはならないことも指摘されます。
がんやウイルスに打ち克つための新薬の開発のヒントは、民間伝承薬として親しまれてきた数々の薬草など、遺伝子資源の宝庫ともいわれる森林から得られる場合も少なくありません。今日問題となっている森林乱伐による森林減少は、遺伝子資源の減少の問題でもあるため、これから必要とされる新薬の開発にも悪影響をもたらすことで、人の健康の危機にも関係することが懸念されます。
上記の例は一例にすぎませんが、このような問題を解決すべく、JPCCNでは、市民が知っておくべき化学情報を的確に伝える取り組みを通じて、生物多様性の保全に協力してまいります。
例えば、自然保護活動を手がける団体がJPCCNと連携することにより、自然保護活動に化学物質に関する配慮の視点を加えることによる活動の質の向上が期待できます。こどもに科学の楽しさを伝える活動団体の場合は、JPCCNが考え方の基盤としている「環境」を意識した教材開発もできるでしょう。とくに生物が関する活動では、化学物質の問題は何らかの接点をもっています。これまでは化学物質のことはあまり考えてこなかったという団体や活動家の方なども、ぜひJPCCNとの連携でやってみたいことを思い描いてみてください。